はじめに

インターネット上にはあらゆる情報が溢れ、オフィスに居ながらにして世界中のデータにアクセスできる時代になりました。しかし、私たちはあえて問います。「その画面上の情報は、本当に真実なのか?」と。

誰もが情報を発信できる現代において、二次情報(また聞き)や三次情報(出所不明の噂)は指数関数的に増殖し、何が真実かを見極めるコストは高まり続けています。 だからこそ、私たちインテリジェンス・カンパニーは、最も原始的でありながら、最も強力な手法に回帰します。それが、自らの足で稼ぐ「一次情報」、すなわち「現地調査」です。

本稿では、情報過多の時代にこそ輝きを増す「現地調査」の重要性と、デスクトップ上の調査では決して見えてこない「現場のリアリティ」について解説します。

「現地調査」とは何か

一般的に、「現地調査」という言葉は、さまざまな意味で用いられています。たとえば、不動産業界でいう「現地調査」は、家屋の建築・リフォームなどに際し登記簿や地図などの書面では分からない、土地・建物・周辺環境にかんする現況確認を意味します。また、資源開発の分野では、開発候補地を踏査して地形や地質を把握することにより、鉱床の所在を確認することを「現地調査(現地踏査)」と呼んでいるようです。

いずれも、それぞれの目的に沿って、実際に現地に赴いて必要な情報を視認によって把握するという点で、当社のような「インテリジェンスカンパニー」が活用している「現地調査」との共有点があります。

他方、「インテリジェンスカンパニー」が実施する「現地調査」ならではの特徴として、一種の探偵的手法との近似性が挙げられます。たとえば「探偵業の業務の適正化に関する法律」[1]では、「探偵業務」について「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務」(第2条)と定義されていますが、ここでいう「実地の調査」は、「現地調査」と極めて近い関係にあります。英語では「Field Work」や「On-site Investigation」という表現が用いられます。ちなみに、軍事の領域で用いられる「偵察(reconnaissance)」という手法も、「実地の調査」と類似するものと考えて差し支えないかもしれません。

当社が実施する「現地調査」は、多くの場合、調査対象である法人や個人に関する健全性確認を目的としたバックグラウンド調査(背景調査)の一環として実施されます。コンプライアンス・リスクの観点から、たとえば反社会的勢力との関係性や重大な近隣トラブルなどの有無、また調査対象の活動実態や生活水準の把握など、調査の目的に即して、調査対象に関する“理解を深める”ためにおこなっているアプローチの一つが、私たちが実施している「現地調査」です。


[1] 探偵業務の適正を図り、個人の権利利益の保護に資することを目的に制定された法律。2007 年 6 月 1 日施行、所管は内閣府。

「行動調査」との違い

まず、「行動調査」とは、特定の「人物」を対象として、一定期間、その人物を追尾し、その「行動」を把握する調査手法を意味します。それに対して、「現地調査」とは、特定の「拠点」を対象として、拠点そのもの、あるいはその拠点で活動している組織や人物に関する情報を、現地での観察や近隣への聞き込みなどを通じて収集する調査手法を意味します。「行動調査」にせよ「現地調査」にせよ、いずれも調査の「対象」に直接アクセスして有用な情報を収集するという点では「実地の調査」といえますが、「対象」が「人物」か「拠点」か、という違いがあります。

「現地調査」あるいは「行動調査」などの調査手法は、クライアントの意向(調査目的)に応じた「必要性と合理性」「非代替性」あるいは「有効性」の観点から、適時適切な調査手法として採用されます。そして、「現地調査」にせよ「行動調査」にせよ、その採用・実施にあたっては、法的・倫理的観点を踏まえ、プライバシーや人権の侵害を回避するための十分な配慮がなされていることはいうまでもありません。

現地調査の強み

複数ある調査手法のなかで「現地調査」が持ちうる特有の強みとは何でしょうか。真偽の定かではない情報がうずまく現代社会において、個々の公開情報の正確性や信憑性の判断はますます困難になりつつあります。そうした中、「現地調査」によって、実際に目視によって確認した調査対象たる「拠点」の現況は、「たしかにそこに存在している紛れもない事実」として、物理的な証拠を伴った客観性・信頼性の高い情報であるといえます。また、ある人物が意図して重要な情報を隠匿している、または虚偽情報を顕示している可能性を想定しなければならない状況において、その事実関係の把握に資する情報を収集する際にも、その人物が関係する「拠点」の現況を確認することが有用です。

たとえば、ある法人を調査対象とする場合、「現地調査」では、なぜその場所に本店が置かれているのか、本店と実際の本社機能は同じ場所にあるのかないのか、支店や他の活動拠点は確認されるか、確認される場合、そこでいつから何をしているのか、あるいはしていないのか、近隣の人間はその法人についてどういった印象を持っているか、特定の人物について認識があるかどうか――など、さまざまな観点から調査対象の理解を深めるために現地で取材を重ねることになります。

こうした「現地調査」を通じて得られた情報は、さらに、OSINT(Open Source Intelligence:公開情報に基づく調査)、HUMINT(Human Intelligence:人的情報源を介して行う調査)、そのほか高度なSNS分析などの調査手法を用いて収集された各種情報とあわせて多面的な検証・分析に付されます。こうした過程を通じて、調査対象の実像により肉薄することが可能となります。

事例紹介

以下では、実際に現地調査を実施したことで重要情報の把握につながった事例をご紹介したいと思います。いずれも、M&Aなど企業の重要取引にかかわるデューデリジェンス(DD)の一環として実施された事案です。

【1】反社会的勢力との関係性が判明した事例

クライアントが取引を検討している企業(対象法人)について、暴力団との関係があるとの風評が聞かれた。ただし、公開情報の範囲では、対象法人が、明確な反社会的勢力としての属性および当該勢力との関係性を有する情報、あるいは違法行為・不正取引あるいは、それらに伴う処罰歴などの情報は検出されなかった。そこで、対象法人が所有する不動産において「現地調査」を実施した。その結果、その不動産の隣にある建物(以下、「隣地ビル」)の設備(機器類)が、対象法人の所有する不動産の敷地内に不自然なかたちで干渉(設置)している様子が確認された。また、周辺での聞き込みによって、隣地ビルには暴力団関係者と思しい人物の出入りがあるとの発言が得られた。これらの情報を踏まえて、隣地ビルおよびその所有者についても調査したところ、隣地ビルの所有者の遍歴に不自然な点が確認されたのみならず、その中に暴力団関係者と同姓同名人物が含まれていることが判明した。また、隣地ビルに本店を置く法人が確認されたため、同法人についても調査した結果、その役員に上記姓名の人物が就任していることが確認された。このことから、この隣地ビルは暴力団が関係するビルである可能性が非常に高く、対象法人もその暴力団関係者と何かしらの関係性を有する可能性が高いとの判断に至った。

【2】過去の本店所在地において重大な懸念事項が判明した事例

ある調査の対象法人について、その風評に不審な点が認められたため、この法人の歴代の本店所在地を対象とした「現地調査」をおこなった。その結果、過去のある本店所在地(マンションの1室)周辺での聞き込みから、その所在地は「いわくつきの部屋」との評価が聞かれた。さらに、その部屋の過去の入居者に反社会的な風貌(入れ墨があるなど)をもつ人物がいたこと、その部屋に警察関係者が度々訪れていたこと、その部屋の入居者が逮捕されたことがあるなどの情報も得られた。この「現地調査」の結果に基づき、該当する逮捕情報の確認、そのマンションの部屋の所有者の遍歴や権利関係などを確認したところ、過去に同室に入居していた人物が詐欺の容疑で逮捕され、また反社会的勢力との関係性が指摘されていた事実が判明した。この人物が逮捕された時期は、対象法人が入居していた時期と同一であったこと、この逮捕された人物と対象法人が現在も関係している可能性が別途、確認されたことから、対象法人の健全性をめぐり重大な懸念が認められるとの判断に至った。

【3】現地で収集した風評を端緒に、調査対象に関する重大懸念事項が判明した事例

ある地域で過激な活動をおこなっているとされる人物に関するバックグラウンド調査を実施することとなった。この人物については、氏名、現住所地、「数年前に県外(県名のみ把握)から転居してきた」という事前情報以外は不明だった。この人物の姓名をキーワードとして公開情報から情報収集を試みるも、有用な情報は見当たらなかった。そこで、この人物の現住所地において「現地調査」を実施した。その結果、近隣の住民から「引っ越してくる前は、いろいろな事業を経営していたらしい」、「以前、何か問題を起こしたことがある人らしい」との風評が複数聞かれた。この情報を踏まえて、改めて、公開情報を精査したところ、この人物が過去に別の氏名で事件を起こして逮捕された事実が判明した。調査時に調査対象が使用していた氏名は、逮捕時の氏名とは別のものであったことから、通常の公開情報収集では情報が抽出できなかったが、「現地調査」によって得られた対象人物に関する“風評”が、この人物に関する「隠された過去」を明らかにする端緒となった。

これら3件は、いずれも公開情報では確認し得なかった調査対象に関する不芳情報について、「現地調査」を通じて、直接的あるいは間接的に把握することができた事例となっています。ネット上の公開情報だけでは調査対象の適切な健全性評価には至らないケースは少なくなく、「現地調査」をつうじて初めて重要情報が把握された好例といえます。

これ以外にも「現地調査」では、たとえば調査対象が法人の場合、その活動拠点の観察を通じてその社風や価値観などの把握やキーパーソンの特定につながったり、また調査対象が人物の場合、その人物の「人となり」、ビジネス哲学などの把握につながったりすることがあります。そのようにして得られた情報は、企業の重要取引において有効な交渉材料して活用できる場合があります(当社が展開する「ディール・インテリジェンス」[1]においても「現地調査」は有用な調査手法の1つです)。


[1] JPR&Cの「ディール・インテリジェンス」サービスでは、クライアント企業の新規の事業開拓・市場参入などをめぐる重要経営判断・交渉に資する射程の広い情報収集・分析を行います。

「現地」×「多角分析」が生む、真のインテリジェンス

本稿では、企業の経営判断などに資する調査・分析を専門とするJPR&Cが実際におこなっている調査手法のひとつである「現地調査」についてご紹介いたしました。

当社がクライアントから調査のご依頼をいただく際、「クライアントの重要経営判断に資するインテリジェンスの提供」を念頭に、個々のご依頼の背景や目的、その背景にある大局的な戦略等も踏まえてビスポーク型の精緻な調査設計を行います。その際、調査対象の活動拠点の現況を確認することが調査の精度の向上に大きく寄与するケースは年々、増加傾向にある印象です。

実際に現地に赴き目視で確認される情報は、デマやフェイクニュースが蔓延する現代社会にあって、信頼に足る重要なファクトとして有効活用されます。本稿でご紹介した事例などからも、実際に現場に赴いてみてはじめて把握できる情報もあるということが多少ご理解いただけたのではないでしょうか。もちろん、現地で得られた情報をすべて鵜呑みにするのではなく、さらに、OSINT、HUMINT、SNS分析などの調査手法を用いて収集された各種情報とあわせて仮説・検証・分析のサイクルを重ねることが、より精度の高い調査結果につながることとなります。

JPR&Cが実施する調査は、“クライアントが真に欲するインテリジェンスの提供をおこなうこと”を最大の目的としています。「現地調査」はその目的を遂行するための一つの調査手法ですが、その活用の仕方次第で、想像以上の有用な情報につながることも少なくありません。

当社がインテリジェンスカンパニーとして、企業が直面する様々な経営課題に対する戦略的で体系的な対応策の策定・実行をサポートしていくうえで、OSINTで収集するような机上のデータ収集だけではなく、自らの足を使って根気よく情報を集める「現地調査」の重要性は今後も増していくものと考えております。