二大国の歩み寄りと、企業が備えるべき「つかの間のモラトリアム」

米中対立に緩和の兆しが見られます。中国は24日、米国の制裁対象となっている李尚福国防相を解任するとともに、翌25日には習近平国家主席が米国の民間団体「米中関係全国委員会」の会合に祝辞を寄せ、「中国は米国と協力し、共通の繁栄を推進する用意がある」との旨述べています。26~28日には中国の王毅共産党政治局員兼外相が訪米し、国防対話の再開などが話し合われる見込みです。29~31日に中国北京で開かれる多国間の安全保障会議「香山フォーラム」では、米国国防省当局者はもちろん、ロシアのショイグ国防相も含め、世界各国および国際組織の代表が参加する予定ですが、その場で米中の国防当局が両軍の意思疎通について話し合うか注目されるところです。

国防相を解任された李尚福氏は、2018年に米国が制裁対象に指定した人物ですが、習指導部は今年3月にその李氏を国防相に就任させ、6月には米国からの国防相会談の呼び掛けに対して、李氏への制裁を理由に拒否するなど、両国間で国防対話が行われない危機的な状況にありました。その意味で今回の李国防相の解任は、その背景は不透明ながらも、中国の姿勢の変化と捉えることもでき、米中国防対話の再開に弾みがつくとの期待もあります。

互いの事情から歩み寄りを見せる二大大国

米中が再接近し始めた背景はいくつか考えられます。まず米国では、昨年からのウクライナ情勢に中東の緊張が加わり、対応範囲や負荷が拡大する中、ここでさらに台湾や南シナ海で中国と偶発的な衝突が起こる事態は何としても避けたいのが本音でしょう。バイデン大統領はウクライナとイスラエルの支援で15兆円規模の追加予算を議会に求めていますが、更なる軍事予算の積上げは容易でなく、中国との国防対話の再開は米国にとって喫緊の重要課題と言えます。また、バイデン大統領は来年11月の大統領選を控え、特に共和党内で対中強硬派が勢いづく前に中国との対話余地を探りたいとの思惑もあると思われます。さらに、ウクライナ情勢や中東の緊張は原油価格などの上昇を通じて、FRBの急速な金融引締めにより来年以降の景気後退入りが懸念される米国経済にスタグフレーション(物価上昇と景気後退が併存)懸念も加わることになり、大統領選前の経済失速を避けたいバイデン大統領にとっては、中国との経済制裁合戦を続けている場合ではないというところでしょう。

一方の中国も、かつてないほどの苦境にあります。中国経済が大きく依存する不動産市場の低迷が続いており、地方財政が悪化する中で国債増発による財政出動や金融緩和により景気を下支えていますが、資本の海外流出や人民元安も進んでおり、ゼロコロナ政策の撤廃で落ち着きつつある国民の不満が再び高まりかねない状況です。その中で米国の経済制裁がボディーブローのように効いており、中国としても米国との経済制裁合戦は望まないところでしょう。 「中米関係は世界で最も重要な2国間関係だ。競争と対立は時代の潮流にそぐわない」。習近平国家主席が10月9日に米民主党シューマー院内総務と北京で会談した際の言葉です。互いの事情から歩み寄りを見せる二大大国、有事前のつかの間のモラトリアムにならないことを望みたいところです。

  • 中国国防相の解任で期待される米中国防対話の再開
  • 互いの事情から歩み寄りを見せる二大大国。つかの間のモラトリアムの可能性も

当社がお役に立てること

企業がサステナブルな企業価値向上を目指すうえで、今や地政学リスク・経済安全保障への対応は経営の中心的な課題となりつつあります。弊社は「地政学デューデリジェンス」サービスにより、お客様の経営判断に資するインテリジェンスをご提供します。

【地政学デューデリジェンス】 (情報提供、分析、対応策提示までご支援いたします)

  • フェーズ1:お客さまの経営状況から対応すべきリスク項目を整理し、関連情報を提供
  • フェーズ2:各リスク項目に関するリスク・シナリオ分析を行い、分析情報を提供
  • フェーズ3:各リスク・シナリオにおけるお客さまへの影響分析、脆弱性分析を実施
  • フェーズ4:影響分析や脆弱性分析に基づく対応事項や方向性を提示

企業向け地政学リスクに関するご相談